自分で置いた締切より、外から等間隔に来る締切のほうがうまくいった
「今週中にやる」と自分で決める。週の前半は手をつけないまま過ぎ、金曜の夜になって慌てる。次はもっと早めにと水曜を締切にして、その水曜もまた同じことになる。
締切を置くこと自体が間違っているようには思えません。ただ、置いた締切がなぜ効かないのかを意志の話にしてしまうと、そこから先へ進めなくなります。締切をどこに置くかだけを変えて比べた実験があります。
後ろに置けるのに、手前に置いた
Dan Ariely と Klaus Wertenbroch は 2002 年、締切と先延ばしの関係を調べた研究を発表しました1。
一つ目は、学期を通して3本の課題を提出する授業でのものです。学生は、3本それぞれの締切を自分で決めてよいと伝えられました。ただし一度決めた締切は後から動かせず、遅れれば評価が下がります。3本とも学期末に置いてしまっても構いません。
それでも、多くの学生は学期末より手前に締切を置きました。後ろに置けるのに、わざわざ自分を縛るほうを選んだわけです。締切が無ければ先延ばしてしまう自分を、学生自身が先に見越していた、と読める行動です。
そして、締切を学期の中に散らした学生のほうが、まとめて後ろに置いた学生より授業の評価が良くなっていました。ただし、どこに置くかを選んだのは学生自身です。置き方が評価を変えたのか、そういう置き方をする学生がもともと良い評価を取るのかは、この比べ方では明らかになりません。
いちばん良かったのは、外から等間隔に来た締切だった
その先を分けたのが、もう一つの実験です。参加者は、3つの文章の誤りを見つける作業を任されました。報酬は見つけた誤りの数で決まり、遅れれば減ります。ここで参加者は3つの条件に分けられました。締切が最後に一度だけ来る条件、3つの締切を自分で決める条件、そして3つの締切が等間隔で外から与えられる条件です。
もっとも良い結果になったのは、等間隔で外から与えられた条件でした。自分で決める条件はその次で、最後に一度だけの条件がいちばん悪い。自分で締切を置くことは効いている。それでも、等間隔に置かれたほうには届かなかったということになります。
一つ、この実験で分けられていないことがあります。いちばん良かった条件は、等間隔であることと、外から与えられたことの両方を備えています。外から与えられるが等間隔ではない、という条件は置かれていません。「等間隔」と「外から」のどちらが効いていたのかは、この実験からは出てきません。
締切の数の話でもあり、数だけの話でもない
締切が最後に一度だけの条件がいちばん悪かったので、締切の数そのものは効いています。刻めば効く、と読める結果です。
ただ、それだけでもありません。自分で決める条件と等間隔の条件は、どちらも締切が3つです。数が同じで、置いた場所だけが違っていて、そこで差がついています。
刻む方向にも限度はあるはずです。先延ばしと気分の話で書いたとおり、先延ばしには課題に向き合うときの嫌な感情を避けるという側面があります。
置き場所は、何を材料に決めているのか
自分で締切を決めるとき、人はまず「これくらいで終わる」という見積もりをして、そのうえで置き場所を決めているはずです。手帳が続かない話で書いたとおり、その見積もりが実際より短いほうへ寄ることは繰り返し確認されています。
見積もりが短いほうへ寄るなら、それをもとに決めた締切も影響を受けます。必要な作業量からすれば、遅すぎるところに置かれることになる。3日かかるものを1日で終わると見ていれば、締切の前日から始めれば間に合う計算になるからです。締切そのものは慎重に決めたつもりでも、決める材料になった見積もりのほうが短い。
外から等間隔に来る締切は、この見積もりを経由しません。どれくらいで終わるかという見通しと関係なく、同じ幅で区切りが来ます。
一日という区切りは、こちらの見通しでは動かない
一日という区切りも、同じ幅で来ます。今日やると決めたことの締切は今日の終わりで、その場所は自分では選べません。
ただ、タスク管理の道具の多くは、この区切りを外せるようになっています。終わらなかったものは翌日へ自動で移る。締切を先へ延ばしても、同じリストに並び続ける。締切は結局、いくらでも置き直せるものに戻ります。
それでも、今日に何を入れるかは自分で決めている
一日の幅が外から来ているとしても、その中に何を乗せるかは自分の判断です。3日かかる仕事を今日ぶんに入れてしまえば、見積もりの楽観はそのまま入り込みます。
締切を動かせなくしても見積もりは直りません。変わるのは、外れたことが分かる時点のほうです。締切が何日か先にあるあいだは、間に合うかどうかをその直前まで確かめられません。締切がその日の終わりなら、入れすぎたことはその日のうちに分かります。
もう一つ、今日やらなかったものを翌日また今日ぶんに入れれば、結局は置き直したのと同じだ、という反論もあります。これもそのとおりで、明日また入れることはできます。違うのは、そのとき一件ずつ自分で選び直すことになる点だけです。昨日のタスクが残る話で書いた、自動で繰り越さない理由がここにも掛かっています。
TodOne がどうしているか
TodOne は、今日ぶんのタスクだけを表示します。先の日付へずらすことはできますが、ずらせばそのタスクは今日の画面から消えます。「来週まで」のタスクを今日も明日も表示し続けることはしません。終わらなかったものが自動で翌日へ移ることもなく、明日もやるなら明日の画面で入れ直すことになります。残りは「あと1件で今日が整います」という形で見えます。
Ariely と Wertenbroch が調べたのは、授業の課題と、報酬のかかった校正の作業です。ToDo アプリの日付の扱いを調べたものではありません。研究の締切はどれも後から動かせないもので、遅れれば評価や報酬が下がりました。今日の終わりに、そういう罰はありません。共通しているのは、区切りが同じ幅で来ることと、それを自分の都合では動かせないことだけです。
自分で締切を置くこと自体は効いても、置き場所のほうは見積もりに引きずられます。だとすれば、置き場所を決めなくて済む区切りに、はじめから乗せておくというやり方もあります。決めたのにやらなかった話で書いた「いつ・どこで」の具体性は、一日の中のどこでやるかの話でした。今回の話は、どの一日に置くかのほうです。
「今週中にやる」は、自分で置いた締切です。今日ぶんの数件が置けるのは、あらかじめ区切られているいずれかの一日だけです。
Footnotes
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Ariely, D., & Wertenbroch, K. (2002). Procrastination, deadlines, and performance: Self-control by precommitment. Psychological Science, 13(3), 219–224. ↩