手帳が続かないのは、たぶん見積もりのせい
9月になると、来年の手帳が並びはじめます。
去年もこの時期に買った人には、たぶん覚えがあると思います。最初の2週間はきれいに埋まっていて、そのあとに空白が続いて、いつのまにか鞄から出さなくなった。それでも今年もまた、書店で手に取ってしまう。
続かなかった理由を、たいてい人は自分の性格に求めます。飽きっぽいとか、意志が弱いとか。ただ、破綻の仕方には一つ、性格とは別の説明がつく部分があります。書いた予定が、そもそも入りきらない量だったという説明です。
人は自分の作業時間を、構造的に短く見積もる
Roger Buehler、Dale Griffin、Michael Ross は 1994 年、卒業論文を書いている心理学部の学生 37 人に、論文がいつ終わるかを予測させました1。
平均の予測は 33.9 日。同じ学生に、「すべてが可能な限りうまく運んだ場合」と「すべてが可能な限りまずく運んだ場合」も予測させています。前者が 27.4 日、後者が 48.6 日でした。
実際にかかった日数は、平均 55.5 日。
自分で出した「最悪の場合」の見積もりよりも、現実のほうが遅かったわけです。予測した日数までに終えられた学生は、3 割ほどでした。
この、自分の作業にかかる時間を実際より短く見積もる傾向は「計画錯誤(planning fallacy)」と呼ばれています。厄介なのは、過去に何度も遅れた経験がある人でも起きるところです。経験から学んで補正する、という形になりにくい。
「余裕を見たつもり」が、いちばん効かない
この研究で興味深いのは、悲観的な予測をさせても足りなかったという点です。
手帳に予定を書くとき、多くの人は無意識に「うまくいった場合」に近い時間で書いています。移動が滞らず、割り込みが入らず、前の作業が押さない前提の時間です。そこに少し余裕を足したつもりでも、その「余裕を足した版」がだいたい 48.6 日のほうにあたる。現実は、その先にあります。
1 日ぶんで見れば、ずれは小さく見えます。30 分の予定が 45 分になっただけ。ただ手帳は、日付が最初から印刷されているので、先の日付にもいくらでも書けます。今日入りきらなかったぶんを明日に書き、明日のぶんは明後日に押し出される。ずれは消えずに、前に送られていきます。
そうして 2 週目あたりで、追いつけない量になる。空白が始まるのはそのあとです。
手帳の話に戻す前に
Buehler らが調べたのは、卒業論文という単一の大きな課題についての予測でした。手帳に書いた1日ぶんの予定が入りきらない、という話を調べた研究ではありません。細かいタスクの積み重ねにそのまま当てはまるとは言えません。
研究として繰り返し確認されているのは、時間の見積もりが楽観に寄るという傾向そのものまでです。
それでも、続かない理由を性格だけに求めるよりは実際に近いはずだと思っています。見積もりのずれは、意志の強さでは埋まりません。
減らすほうしか手がない
見積もりが構造的に楽観へ寄るなら、対処は「もっと正確に見積もる」ではなく、書く量を減らすほうになります。
紙の側には、この考えを手続きに落とした方法があります。バレットジャーナルの「マイグレーション」です2。終わらなかった項目を次の月へ持ち越すとき、手で書き写さなければなりません。20 項目残っていれば 20 回書く。考案者の Ryder Carroll は、この面倒さを欠点ではなく機能として置いています。書き写す気にならない項目は、そもそもやる必要がなかったのだ、と。
面倒さが、量を減らすフィルターとして働いているわけです。
書ける欄が、今日のぶんしかない
TodOne は、今日ぶんのタスクだけを表示します。先の日付へずらすことはできますが、ずらせばそのタスクは今日の画面から消えます。入りきらなかったぶんを明日の欄に書き足して、そこが埋まっていくのを見ることはありません。昨日終わらなかったものも、自動では今日に流れ込みません。
手帳の代わりになるものではありません。書ける日の手帳はいいものです。ここで置いているのは、書けなかった日に、それでも今日の数件だけは決めておくという使い方のほうです。
紙とアプリは、どちらかを選ぶものではなく、往復するものだと思っています。