TodOne

Done が増えても進捗にならないのは、ゴールが動くから

今日もいくつかタスクにチェックを付けて消しこんだ。付ける瞬間には、たしかに片づいた感じがある。それなのに次の日になってリストを開くと、昨日とだいたい同じ長さのまま並んでいる。増えたはずの Done は、どこへ行ったのか。

進捗を確認させると、達成の量が増えた

Benjamin Harkin らは 2016 年、目標に向かう進捗を本人に確認させる働きかけを扱った実験研究を集め、メタ分析として統合しました1。進捗を確認するよう促されるかどうかで参加者を分けた研究群です。

結果は、進捗を確認する頻度を上げる働きかけは、目標の達成のほうも押し上げていたというものでした。目標に近づくための方法を新しく教えたわけではありません。いまどこまで来ているかを確認させただけで、達成の量が増えていました。

効果の出方は一様ではありませんでした。進捗を記録として残す形を取った研究では、達成への効果が大きく出ています。他人の目に触れる形で確認した研究でも、同じように大きく出ていました。

ここで測られているのは目標の達成であって、進んだ感じがするかどうかではありません。

これは個々の実験を統合した結果です。メタ分析が示すのは平均的な傾向で、ある人がある目標について確認を増やせば達成できる、という保証ではありません。

この研究が数えていた「進捗」

もう一つ、押さえておきたいことがあります。Harkin らが扱ったのは、あらかじめゴールの決まった目標に対して、いまどこまで来ているかでした。何キロ落とす、週に何回動く、といった形で行き先が先に決まっている。決まっているから、どこまで来たかを数えられます。

消した数は、何に対する割合なのか

溜まっていくタイプの ToDo リストでは、ゴールにあたるものがはっきりしないことが多いはずです。あるのはたいてい、その時点で溜まっている項目の一覧です。

今日いくつか消したとして、それは全部で何件のうちのいくつなのか。溜まる形のリストでは、その「全部で何件」のほうも動きます。消した数より足された数が多い日には、割合としては前の日より下がっている。翌日また消しても、比べる相手が前の日と入れ替わっていれば、割合として前に進んだかどうかは並べて比べられません。消した件数そのものを数えることはできますが、それは「どこまで来たか」ではなく「いくつやったか」です。

チェックを付ける瞬間の手応えが夜まで残らない理由の一つは、ここにあるのかもしれません。手応えは1件ずつ生まれています。でも、それを受け止める分母のほうが同じ日に増えていれば、分子が1つ増えても割合は前に進みません。

分母を今日ぶんに絞ると、1件消すごとに割合が進む

その日にやるぶんだけを分母にしておけば、1件消すたびに割合は前に進みます。割り込みが入って今日ぶんが増える日はあるので、分母がまったく動かないとは言えません。それでも、積み残し全部を相手にするのに比べれば、動く幅ははるかに小さくなります。

件数を絞る理由は、もう一つあります。今日のリストが長いだけで疲れる話で書いた、比較・選択の作業台に乗り切る量に収める、という理由です。こちらは分母の大きさの話で、いま扱っているのは分母が動くかどうかのほうです。

分母を絞っても、積み残しは減らない

ここで素直な反論があります。今日やる数件だけを分母にすれば割合は上がるが、外に置いた積み残しは昨日より増えている。それは進捗が見えるようになったのではなく、見る範囲を狭めただけではないか、というものです。

そのとおりで、範囲を狭めても積み残しそのものは減りません。今日ぶんを決めるのは、溜まったものを片づける方法ではなく、その日に手をつける範囲を決めることです。積み残しのほうは、別の日に別のやり方で減らすことになります。

もう一つ、分母を自分で決められるなら割合はいくらでも作れる、という反論もあります。1件だけ入れて1件消せば 100% です。これもそのとおりで、朝に置いた数がその日の実際と合っていなければ、割合は何も表しません。分母を絞ることが効くのは、その数が本当にその日にやるぶんであるときだけです。

そのうえで、Harkin らが扱っていたのも積み残しの解消ではありませんでした。ゴールの決まった目標に対して、いまどこまで来ているかを確認させると、達成の量が増えた。比べる相手が動く場合にどうなるかは、この研究の中にありません。 ただ、割合として比べたいのなら(そうすることで日々の達成量を増やしたいのなら)、比べる相手を先に決めておくよりほかにありません。分母が動いているかぎり、その日の割合は前の日の割合と同じものを指していないからです。

TodOne がどうしているか

TodOne は、今日ぶんの数件だけを表示し、残りを「あと1件で今日が整います」という形で見せます。最後の1件を消すと「今日のタスクはすべて完了です」と表示されます。分母がその日のぶんに収まっているので、残り件数がそのまま、その日のゴールまであと何件かを表します。

もう一つ、TodOne にはタスクを「ありたい姿」に紐づける仕組みがあります。こちらには期日も達成チェックもありません。何割まで来たかを測る相手ではない、ということです。日々の割合はその日のぶんで閉じ、向かう先のほうは動かないまま置いておく。分母と行き先を、別々に持たせてあります。

ここで挙げた研究は、ゴールの決まった目標に向かう行動を対象にしたもので、ToDo アプリの残り件数の表示を検証したものではありません。効果が大きく出ていたのは、進捗を記録に残す形と、他人の目に触れる形でした。画面を一人で眺めるのは、そのどちらでもありません。それでも、その日の分母を決めておけば、少なくともその日の中では「どこまで来たか」が成り立ちます。1件消すごとに割合は前に進み、最後の1件で終わりが来る。溜まったもの全部を相手にしているかぎり、その終わりは来ません。

小さな前進が一日の手応えを決める話でも分母には触れていて、そちらは分母が大きいと今日こなした数件が埋もれる、という話でした。今回扱っているのは、その大きさではなく、分母が日ごとに動くことのほうです。

増えたはずの Done は、どこへも行っていませんでした。そして行き先が変わらないかぎりは、そこへ行くための原動力にもなってくれるのです。


Footnotes

  1. Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229.