急ぎに見えるというだけで、得しないほうを選んでしまう
一日が終わって振り返ると、細かい用事はきれいに片づいている。返信も出したし、期限の迫っていた書類も出した。それなのに、ずっとやりたかったことだけが、今日も手つかずのまま残っている。
急ぎのものを先にやったのだから、順番として間違っていたようには思えません。ただ、その「急ぎ」がどれだけ大事だったかは、選んだ時点では確かめていません。
急いで見えるほうが選ばれた
Meng Zhu、Yang Yang、Christopher Hsee は 2018 年、急ぎであることが作業の選び方にどう働くかを調べた5つの実験を発表しました1。
実験で参加者に示されたのは、終えたときに得られるものが大きい作業と、小さい作業です。そして、得られるものが小さいほうにだけ、急がなければならないように見える見た目が付いていました。
それでも、参加者は、得られるものが小さいほうの作業を選びやすくなっていました。先にやらないと損をするといった実質的な理由のほうを差し引いても、この差が残っています。
Zhu らはこれを「単なる緊急性の効果(mere urgency effect)」と呼んでいます。「単なる」は、大したことがないという意味ではありません。急ぎの根拠が作業の中身の側に無い、という意味です。
効果を弱めるものと、強めるもの
この選び方が、いつでも同じ強さで起きるわけではないことも調べられています。
得られるものの差を目立たせると、緊急性に引っ張られる度合いは弱まりました。どちらがどれだけ得なのかが目に入る形になっていれば、人はそちらを見て選び直せる、ということになります。
逆に、自分を忙しいと感じているときほど、急ぎに見えるほうへ引っ張られやすくなっていました。
得られるものの差を目立たせるかどうかは、選ぶ場面の側の話です。自分を忙しいと感じているかどうかは、選ぶ人の側の話です。共通しているのは、作業そのものは変わっていないのに、選ばれるほうが変わっている、というところです。
リストは、どちらを目立たせているか
期限を入れて使っているリストでは、項目に付いている情報のうち、いちばん目につくのはたいてい期限です。日付を過ぎたものには印が付き、並び順もそれで決まることが多い。一方で「これをやると何が前に進むのか」は、書かれていないか、書かれていても項目名の中に埋もれています。
緊急性に引っ張られる度合いが弱まったのは、得られるものの差が目に入る形になっていたときでした。だとすれば、期限だけがよく見えて得られるものの側が見えないリストでは、緊急性に引っ張られる度合いは弱まらないままだ、ということになります。
選ぶ場面を減らしても、一度は残る
リストを開くたびに「次はどれをやるか」を決め直しているなら、そのたびに同じ選択が起きます。決めたのにやらなかった話で書いたとおり、いつ・どこでやるかを先に決めておけば、その場での決め直しは減らせます。決め直す回数が減れば、期限の目立ちやすさに触れる回数も減るはずです。
ただ、回数を減らすだけでは足りません。実験が示したのは1回の選択で起きることなので、残った一度でも同じことは起きます。今日ぶんを決める場面が朝の一度だけだとしても、その一度で何が見えているかは、やはり効いてきます。
減らすほうと、見えるものを変えるほうの、両方が要ることになります。
それでも、急ぎのものは急ぎである
ここには素直な反論があります。期限が近いものを先にやるのは、多くの場合は正しい。期限を過ぎれば実際に困ることが起きるからです。
そのとおりで、急ぎのものを後回しにしたほうがよい、という結果ではありません。実験で急ぎに見せてあったのは、実質的な理由のほうを取り除いた作業でした。厄介になるのは、急ぐ理由が無いのに急ぎの見た目だけが付いているものと、本当に急ぐものが、同じ形で並んでいるときです。並んだ時点では、どちらも同じように急ぎの見た目をしています。見分けるには、一件ずつ中身を見るしかありません。
TodOne がどうしているか
TodOne は、今日ぶんの数件だけを表示します。今日ぶんに入れなかったものは、画面には出てきません。
タスクは「ありたい姿」につながります。「健康でいきいきと暮らす」のような、期日も達成チェックも持たない、どうありたいかを書いた言葉です。そのタスクがどこへ向かう一歩なのかが、タスクの側から見えます。得られるものの側が、選ぶときに目に入るところに置いてある、ということです。
Zhu らが調べたのは、実験の中で用意された作業のどちらをやるかです。ToDo アプリの画面を調べたわけではありません。実験では、どちらが得かがはっきり決まっていました。日々のタスクでは、それが目に見える形で並んでいるとはかぎりません。共通しているのは、選ぶ瞬間に何が見えているかで、選ばれるほうが変わるというところです。
自分で置いた締切の話は、一つのタスクの締切をどこに置くかについてでした。今回の話は、いくつか並んだうちのどれに手をつけるかのほうです。
急ぎの用事が片づいた日は、たしかに何かが片づいた日です。ずっとやりたかったことが今日も手つかずで残ったかどうかは、たいてい夜になってから分かります。決めるのは、その前です。
Footnotes
-
Zhu, M., Yang, Y., & Hsee, C. K. (2018). The mere urgency effect. Journal of Consumer Research, 45(3), 673–690. ↩