「今日は前に進んだ」という感覚を、何が決めているのか
やることは片づけたはずなのに、夜になって「今日、あまり進んでいない気がする」と思う日がある。逆に、たいしたことをしていないのに「今日はいい日だった」と感じる日もある。この差を分けているのは何なのか。
一日の気分をいちばん動かすのは、達成の大きさではなかった
経営学者の Teresa Amabile と心理学者の Steven Kramer は、複数の企業で働く知識労働者を対象に、日々の出来事とその日の気分・意欲を長期間にわたって記録してもらう調査を行いました1。表彰、報酬、チームイベント、上司からの励ましなど、一日の気分を左右しそうな出来事はいくつも候補に挙がります。
その中で、「良い一日だった」と本人が振り返る日にもっとも共通して現れていたのは、意味を感じている仕事において前に進めたという出来事でした。しかもその前進は、大きな達成である必要はなく、ささやかな一歩でも同じように働いていたとされています。逆に、気分が沈んだ日にもっとも多く見られたのは、その裏返し——前に進めなかった、あるいはつまずいたという出来事でした。
Amabile と Kramer はこの結果を「進歩の法則(progress principle)」と呼んでいます。一日の手応えを決めているのは、何を達成したかの大きさではなく、前に進んだという実感が、その日のうちに得られたかどうかだという見立てです。
これは日誌にもとづく観察研究です。出来事と気分の対応を長期間集めたもので、特定の出来事を実験的に起こして効果を確かめた設計ではありません。前進させれば必ず良い一日になる、とまでは言えない。良い一日には前進が伴っていることが多かった、という対応が繰り返し観測されたということです。
大きな目標だけでは、前進した日が作れない
ここで一つ、素直な疑問が出てきます。大きな仕事は何日も、何週間もかかる。その途中の一日一日は、当然まだ終わっていない。「前に進んだ」という実感は、どこから生まれるのか。
Amabile と Kramer の調査が示したのは、前進は最終的な達成そのものではなく、区切りの見える小さな一歩の積み重ねからでも生まれるということでした。大きな目標を細かく分け、今日のぶんとして扱える単位まで小さくできていれば、その日のうちに「進んだ」と感じられる出来事を作れる。逆に、目標が大きな塊のまま置かれていると、日々の作業が実際には積み上がっていても、区切りが見えないために「進んだ」実感につながりにくい。
「今日ぶん」という区切り方
Amabile と Kramer が調べたのは、企業に勤める知識労働者が担当プロジェクトで進める仕事についてでした。個人の ToDo リストの画面設計を調べた研究ではありません。
そのうえで思うのは、タスクをただ並べただけのリストは区切りを与えない、ということです。何十件と並んだ一覧のうち何件を消したかは、達成感として立ち上がりにくい。分母が大きいままだと、今日こなした数件は埋没します。
今日のぶんだけを取り出して数件に絞る形なら、その数件を消し切ることが、その日のうちに完了できる単位の前進になります。残りが「あと何件」と見えることも、焦りの表示ではなく、前進が近づいていることの表示になり得ます。
今日の中に区切りを作る
TodOne は、今日ぶんの数件だけを表示し、残りを「あと2件で今日が整います」という形で見せます。大きな目標そのものを掲げるのではなく、その日のうちに完了できる単位で前進が見えるようにした、ということです。
Amabile と Kramer の調査は企業の知識労働という別の文脈のもので、この設計の効果を保証するものではありません。それでも、前進の実感が大きな達成ではなく区切りの見える一歩から生まれるのだとすれば、日々の道具にできるのは今日の中に区切りを作ることくらいでしょう。
積み残しが翌日の集中を奪う話を含め、ここまでの記事は同じ設計を別の側から見ているにすぎません。
Footnotes
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Amabile, T. M., & Kramer, S. J. (2011). The Power of Small Wins. Harvard Business Review, 89(5), 70–80. 同著者による書籍版: Amabile, T. M., & Kramer, S. J. (2011). The Progress Principle: Using Small Wins to Ignite Joy, Engagement, and Creativity at Work. Harvard Business Review Press. ↩