昨日のタスクが残っていると、今日が進まない理由
ToDo アプリを開くと、昨日消せなかったタスクが上のほうに残っている。今日ぶんを足そうとするのに、目線はそこへ戻る。開くのが少し嫌になって、そのうち開かなくなる。
このパターンは意志の弱さとして語られがちですが、注意の仕組みの側にも説明があります。
未完了のタスクは、離れたあとも注意を持っていく
心理学者の Sophie Leroy は、2009 年の研究で「注意残余(attention residue)」という概念を提示しました1。あるタスクから別のタスクへ移ったとき、注意の一部が前のタスクに残り続け、次のタスクの成績が落ちるという現象です。
重要なのは、残余が大きくなる条件のほうです。Leroy の実験では、前のタスクが終わらないまま次へ移ったときに残余が大きくなりました。逆に、時間的なプレッシャーがあって前のタスクを終えられた場合には、次のタスクへの切り替えがうまくいっています。
つまり問題は「切り替えたこと」ではなく、「終わっていないものを抱えたまま切り替えたこと」でした。
未完了のものが記憶に残りやすいという話は、さらに古くからあります。Bluma Zeigarnik が 1927 年に報告した、中断された作業のほうが完了した作業より思い出されやすいという現象です2。
ただしこちらは扱いに注意が要ります。ツァイガルニク効果は、その後の追試で結果が一貫していません。条件によって出たり出なかったりすることが知られていて、「未完了のタスクは必ず頭に残り続ける」と断定できるほど強い基盤ではない。古くからそういう観察があり、注意残余の研究と方向が揃っている、という程度のものです。
画面に残っているものは、選ばなくても目に入る
Leroy が実験で扱ったのは、被験者に与えられた作業課題の切り替えでした。ToDo アプリの画面に昨日のタスクが表示されていることを調べたわけではありません。
それでも、リストに残った項目は、こちらが選ばなくても視界に入ります。今日やることを決めるという作業のあいだ中、終わっていないものが目の端にあり続ける。注意残余の研究が示したのは、まさにその状態が次の作業の質を落とすということでした。
だから「今日のタスクだけを表示する」という設計は、画面をすっきりさせるための好みの話ではなく、注意の配分についての判断になります。
自動で繰り越すのは、親切とは限らない
消えなかったタスクを翌日に自動で移してくれる機能は、多くのアプリにあります。手間が減るので親切に見えます。
これに対して、紙の側にはっきり反対の立場を取っている方法があります。バレットジャーナルの「マイグレーション」です3。未完了の項目を翌月に持ち越すとき、書き手はそれを手で書き写さなければなりません。考案者の Ryder Carroll は、この面倒さを欠点ではなく機能として置いています。書き写す気にならない項目は、そもそも本当にやる必要がなかったのだ、と。
自動繰り越しは、この選び直しの機会をまるごと取り除きます。手間は減りますが、やらないと決める作業も同時に消える。結果として、リストは減らないまま伸び続けます。
どちらが正しいと言い切れる研究があるわけではありません。ただ、「繰り越しが自動であること」は中立な便利機能ではなく、リストの性質を変える選択だとは言えます。
1日休んだくらいでは壊れない
積み残しが厄介なのは、それ自体より、そこから「もう無理だ」に接続してしまうところです。ここについては、比較的しっかりした研究があります。
Phillippa Lally らは 2010 年、日常行動が習慣として自動化されるまでの過程を追跡しました4。習慣化までの日数の中央値は 66 日で、行動によって 18 日から 254 日まで大きく開くという結果です。そしてこの研究では、1回実行し損ねても、習慣化の進み方に目立った影響は見られませんでした。
なお、よく引かれる「2日続けて休むと壊れる(Never Miss Twice)」は、James Clear が広めた実践的な目安であって、この研究が示した結論ではありません。言えるのは「1日の抜けは思ったほど響かない」までです。
再開のきっかけについては、別の研究があります。Dai, Milkman, Riis は 2014 年、週の初め・月初・誕生日といった時間の区切りが、目標に向かう行動を後押しすることを示しました(フレッシュスタート効果)5。
区切りは、年に何度もある特別な日だけではありません。毎朝あります。
それで、どう作ったか
TodOne は、今日ぶんのタスクだけを表示します。昨日終わらなかったものは自動で今日に流れ込みません。戻ってきた日に、積み残しの山が最初に目に入ることもありません。
ここで挙げた研究のうち、注意残余は実験室の課題を対象にしたもので、アプリの画面についての結論ではありません。習慣の研究も「こう作れば続く」を保証するものではない。それでも、どちらの形にするかを決めるときの手がかりにはなります。
昨日の続きではなく、今日の数件から始める。それだけのアプリです。
Footnotes
-
Leroy, S. (2009). Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181. ↩
-
Zeigarnik, B. (1927). Über das Behalten von erledigten und unerledigten Handlungen. Psychologische Forschung, 9, 1–85. 追試の結果は一貫していない点に注意。 ↩
-
Carroll, R. (2018). The Bullet Journal Method. Portfolio. ↩
-
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. ↩
-
Dai, H., Milkman, K. L., & Riis, J. (2014). The Fresh Start Effect: Temporal Landmarks Motivate Aspirational Behavior. Management Science, 60(10), 2563–2582. ↩