先延ばしがやめられないのは、時間管理が下手だからではない
夜になって、今日やるはずだったことに手を付けていないことに気づく。自分の詰めの甘さに嫌気がさして、明日こそはと計画をきつめに引き直す。そして翌日、そのきつくなった計画を、前の日より少し重い気持ちで先延ばす。
このループは「時間管理の失敗」として語られることが多く、対策もカレンダーやリマインダーといった時間の道具に向かいがちです。ただ、先延ばしの研究には別の見立てがあります。先延ばしは時間の問題ではなく、気分の問題だ、という見立てです。
先延ばしは「嫌な気分を避ける」行動
Fuschia Sirois と Timothy Pychyl は 2013 年のレビュー論文で、それまでの先延ばし研究をこう整理しました1。先延ばしとは、長期的な目標よりも短期的な気分の修復を優先してしまう自己調整の失敗である——課題に向き合うと生じる嫌な感情(不安・退屈・自信のなさ)を、いま避けることを選んでしまう行動だ、と。
この見立てに立つと、「もっときちんと計画を立てる」が効かない理由の説明がつきます。原因が段取りではなく感情の側にあるなら、段取りをいくら精密にしても、課題が嫌なものである限り避ける動機は残るからです。むしろ計画をきつくするほど課題は重くなり、避けたさは増えます。
なお、これは一次実験ではなく研究レビュー(理論の統合)です。個々の主張の強さは元になった研究に依存します。
短期的には、本当に楽になる——だから続く
先延ばしがただ苦しいだけの行動なら、誰も繰り返さないはずです。Dianne Tice と Roy Baumeister が 1997 年に発表した追跡研究は、この点を示しています2。学期を通して学生を追ったところ、先延ばし傾向の強い学生は、学期の序盤はストレスが低く、体調も良かった。ツケが回るのは後半で、締切が近づくと逆転し、成績も健康も悪化しています。
つまり先延ばしは、その瞬間には実際に効く気分の対処法です。効くから繰り返され、繰り返されるから習慣になる。「なぜ分かっていてもやめられないのか」への答えの一つがここにあります。
自分を責めるほど、次も先延ばす
このループを断つ手がかりとして、少し意外な研究があります。Michael Wohl らは 2010 年、大学1年生の試験勉強を2回の試験にわたって追いました3。1回目の試験勉強を先延ばした学生のうち、そのことについて自分を許せた学生ほど、2回目の試験での先延ばしが減っていたのです。分析上、その経路は「課題にまつわる否定的な感情が減ること」でした。
先延ばしが嫌な感情の回避なのだとすれば、これは筋が通っています。失敗した自分を責めることは、課題に紐づく嫌な感情を増やす行為です。つまり自己批判は、次に避けたくなるものを自分で育てていることになる。逆に許すことは、課題から嫌な感情を剥がすことになります。
ただし、この研究は観察にもとづくもので、自己許しを実験的に操作したわけではありません。対象も大学1年生の試験勉強という単一の場面です。「自分を許せば先延ばしが減る」と因果で言い切れる設計ではない——言えるのは「責め続けた学生より、許せた学生のほうが次はましだった」という対応関係までです。
リストの形は、感情に触る
ここまでの研究はいずれも試験勉強や課題への取り組みを調べたもので、ToDo アプリの画面を調べたものではありません。
溜まっていくタイプの ToDo リストは、開くたびに過去の未達の一覧を最初に突きつける装置になりがちです。先延ばしが嫌な感情の回避なのだとすれば、これは相性が悪い。リストを見ること自体が嫌になり、回避の対象がタスクからリストへ、道具そのものへと広がっていきます。「ToDo アプリを入れたのに開かなくなった」という経験は、意志の弱さではなく、この構図で説明できる部分があるはずです。
今日ぶんの数件だけが見えるリストは、この感情のコストを下げる方向に働きます。開いた画面に過去の失敗が並ばない。着手の重さは「今日の数件」のぶんだけ。そして夜には、やり切った状態を見て閉じられる——課題まわりの感情を、責める材料ではなく済んだ手応えの側へ寄せていく形です。
開くのが嫌にならない形
TodOne は、今日のタスクだけを表示し、昨日の未完了を自動で今日に流し込みません。朝いちばんの画面が、昨日の自分への請求書から始まらないようにするためです。
ここで挙げた研究がこの設計の効果を保証するわけではありません。ただ、先延ばしが気分の問題なのだとすれば、道具の側にできるのは、開くのが嫌にならない形をしていることくらいです。計画をきつくする方向ではなく、今日を軽くする方向。昨日のタスクの話で書いた注意の理由と合わせて、同じ設計を別の側から見ていることになります。
Footnotes
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Sirois, F., & Pychyl, T. (2013). Procrastination and the priority of short-term mood regulation: Consequences for future self. Social and Personality Psychology Compass, 7(2), 115–127. ↩
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Tice, D. M., & Baumeister, R. F. (1997). Longitudinal study of procrastination, performance, stress, and health: The costs and benefits of dawdling. Psychological Science, 8(6), 454–458. ↩
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Wohl, M. J. A., Pychyl, T. A., & Bennett, S. H. (2010). I forgive myself, now I can study: How self-forgiveness for procrastinating can reduce future procrastination. Personality and Individual Differences, 48(7), 803–808. ↩