途中で手が止まるのは、済んだ数も残りの数も多いから
10件のリストの1件目はすぐに片づき、残りが1件になると手が動く。それなのに、その間の数件で手が止まることがあります。
終わりが近いほど速い、と考えられてきた
ゴールに近づくほど行動が速くなる、という考え方は古くからあり、「目標勾配仮説(goal-gradient hypothesis)」と呼ばれています。Ran Kivetz らは 2006 年、カフェのスタンプカードの購買データで、無料の1杯に近づくにつれて次に来るまでの間隔が短くなることを示しました1。
この考え方に沿えば、やる気は始めがいちばん低く、終わりに向けて上がっていくはずです。けれど実際には、始めのうちにも手は動きます。
やる気は、真ん中で落ちていた
Andrea Bonezzi、C. Miguel Brendl、Matteo De Angelis は 2011 年、この考え方が当てはまらない場面を実験で示しました2。
最初の実験で使われたのは、1つの単語から別の単語を作るゲームです。たとえば「manager」が出たら、その単語に含まれる文字だけを使って、「gear」や「range」のような単語をできるだけ多く作ります。
学生はこれを9つの単語で、1語につき2分ずつ続けました。単語には番号が付いていて、いま何語目かが分かるようになっています。
単語によって作りやすさは違うので、順番ごとの成績をそのまま比べると、単語の難しさの差が混ざってしまいます。そこで、同じ3つの単語を、人によって2番目・5番目・8番目のどこに出すかを入れ替えました。同じ単語が、何番目に出たかで作れる数が変わるかを見るためです。
結果は、同じ単語でも、5番目に出たときに作れた数がいちばん少なくなりました。2番目と8番目では多く、真ん中の5番目で落ちる。始めと終わりで高く、真ん中で落ちる、U字の形です。
数える向きが、途中で入れ替わる
Bonezzi らの説明はこうです。人は進み具合を、何かを基準にして数えています。始めのうちは出発点から「いくつ済んだか」を数え、終わりが近づくと「あといくつか」を数えるようになる。
そして、同じ1つぶんの前進でも、基準から遠いほど小さく感じられます。500ページの本を済んだページで数えるなら、50ページ読んだあとの1ページより、200ページ読んだあとの1ページのほうが軽い。残りのページで数えるなら向きが逆になり、残り200ページのときの1ページより、残り50ページのときの1ページのほうが重い。
済んだ数で数えているあいだは、進むほど1件が軽くなっていきます。残りの数に切り替えると、そこからは終わりに向けて重くなっていく。その切り替えのあたりが真ん中です。済んだ数はもう小さくなく、残りの数はまだ小さくない。どちらで数えても1件が軽く感じられ、U字の底はそこにできます。
2つ目の実験では、数え方を見せ方で変えました。学生は受け取った謝礼の一部を、300ドルを目標にした募金に入れることができます。目標までの状況を「これまでに集まった額」で見せると始めのうちに、「あと必要な額」で見せると終わり近くで、多く寄付されました。
3つ目の実験では、9本の文章の誤字を探す作業で、進み具合の図を変えました。済んだぶんのアイコンが増えていく図、残りのアイコンが消えていく図、いま何本目かだけが分かる図の3つです。何本目かだけが分かる図では、やはり真ん中で成績が落ちました。多くの人が、その途中で、見ている数を済んだ数から残りの数へ切り替えていたのです。済んだ数を見せ続けた図では始めの成績がいちばん高く、残りの数を見せ続けた図では終わりがいちばん高くなりました。数える向きを一つに固定すると、U字は出なかったわけです。
小さいほうの数を見る
Minjung Koo と Ayelet Fishbach は 2012 年、済んだ数と残りの数のどちらに目を向けると行動が続くかを、進み具合の段階ごとに調べています3。
始めのうちは、残りの数より済んだ数に目を向けたときに、行動が続きました。終わりに近づくと逆になり、残りの数に目を向けたときに続きました。どちらの段階であっても、効いていたのは小さいほうの数です。
真ん中には、その小さいほうの数がありません。
溜まっていくリストでは、残りの数が終わりを指さない
ここでリストに戻ります。
溜まっていくリストでは、未完了の件数を数えても、それが減って終わりに着くとはかぎりません。進み具合を数えようとすると、済んだ数で数え続けることになりやすいのだと思います。
Bonezzi らの3つ目の実験で、済んだ数を見せ続けた図では、終わりが近づいても成績ははっきりとは上がりませんでした。だから、済んだ数で数え続けるリストでは、Kivetz らのカードで見られた終わり際の加速が、起きにくいのかもしれません。
それでも、作業の量は変わらない
ここには素直な反論があります。済んだ数を見ても残りの数を見ても、やることの量は同じ。見方を変えるのは気の持ちようの話ではないか、というものです。
やることの量が変わらないのは、そのとおりです。ただ、見せ方を変えた2つ目と3つ目の実験で測っていたのは、募金に入れた金額や、1秒あたりに見つけた誤字の数でした。見せ方で変わっていたのは、単なる気の持ちようではなく、実際の行動だったのです。
TodOne がどうしているか
TodOne の今日の画面には、済んだ数と全体が「1 / 4」のように出て、進捗のバーが並びます。まだ1件も終えていないうちは「4件のタスクがあります」と全体の数を、1件終えると「あと3件で今日が整います」と残りの数を示します。
済んだ数と残りの数が、同じ画面に両方出ています。どちらが小さいかは、進み具合で入れ替わります。
Done が増えても進捗にならない話は、分母が日ごとに動くことについてでした。今回の話は、済んだ数と残りの数のどちらで数えているかです。
1件目がすぐに片づくのも、最後の1件で手が動くのも、小さいほうの数を見ているからなのだと思います。手が止まる数件は、その二つの間にあります。
Footnotes
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Kivetz, R., Urminsky, O., & Zheng, Y. (2006). The goal-gradient hypothesis resurrected: Purchase acceleration, illusionary goal progress, and customer retention. Journal of Marketing Research, 43(1), 39–58. ↩
-
Bonezzi, A., Brendl, C. M., & De Angelis, M. (2011). Stuck in the middle: The psychophysics of goal pursuit. Psychological Science, 22(5), 607–612. ↩
-
Koo, M., & Fishbach, A. (2012). The small-area hypothesis: Effects of progress monitoring on goal adherence. Journal of Consumer Research, 39(3), 493–509. ↩