未来は今よりも時間に余裕があると思いがち
3週間先の仕事を頼まれたとき、二つ返事で引き受けた。その日は空いているように見えたから。でも当日を迎えるころには、3週間のあいだに生まれた用事で、いつもと変わらないくらい埋まっている。
同じ仕事を今日やってくれと言われていたら、たぶん断っていました。変わったのは日付だけで、頼まれた仕事そのものは変わっていないのに。
1か月後は、今日より余裕があるはず
Gal Zauberman と John Lynch は 2005 年、人が未来の余裕をどう見込んでいるかを、時間とお金で比べた7つの実験を発表しました1。
最初の実験で、学生は表裏に1問ずつある質問用紙を渡されました。表には時間についての質問が、裏にはお金についての質問が書かれています。
時間の質問はこうです。今日の活動と空き時間を思い浮かべてください。次に、1か月後の同じ曜日の活動と空き時間を思い浮かべてください。どちらの日が空き時間が多いと思いますか。
お金の質問はこうです。今日の支出と、自由に使えるお金を思い浮かべてください。次に、1か月後の同じ曜日の支出と、自由に使えるお金を思い浮かべてください。どちらの日が手元のお金に余裕があると思いますか。
どちらについても、学生は未来に余裕があると答えました。そしてその傾向は、お金についてよりも時間についてのほうが強く出ました。
目先の時間は重く見える
未来はいまより余裕があると思っていると、同じ負担でも、いま払うぶんを重く見て、先で払うぶんを軽く見るはずです。2つ目の実験では、この「先の負担を軽く見る度合い」が、時間とお金で違うかを調べました。
学生に、ネットショッピングの2つのサービスAとBを見せます。どちらも、最初に一度だけかかる「準備」と、使うたびにかかる「手間」があります。学生への質問はこうです。「1年に何回使うなら、AとBが同じくらいに思えるか?」
この負担の度合いを時間(分)で示すか、お金(ドル)で示すかによって、どのような違いが生じるかを観察しました。
- 時間:Aは準備が2分+1回あたり15分、Bは準備が25分+1回あたり8分
- お金:Aは準備に2ドル+1回あたり15ドル、Bは準備に25ドル+1回あたり8ドル
数字は同じで、違うのは単位だけです。
Bは最初に多く払うかわりに、使うたびに得をします。単純に合計すると、3回と4回のあいだで両者が並び、4回目からはBのほうが得になります。
ただし、先の負担を軽く見ている人には、Bの「あとで得をする」部分が小さく見えます。そのため、Bの準備の重さを取り戻すにはもっと多く使う必要があると感じ、答える回数が増えます。答えの回数が多いほど、先の負担を軽く見ているということです。
答えた回数の中央値は、お金で聞いたときが3回、時間で聞いたときが6回でした。お金ではほぼ計算どおりに判断したのに対し、時間では先の負担をかなり軽く見たことになります。
3週間先の空き時間は、近づくと違って見える
3週間先の仕事を引き受ける場面に、もう少し近い実験があります。
6つ目の実験では、同じ学生に3週間の間隔をあけて2回答えてもらいました。1回目は3月16日で、3週間先の4月6日と4月8日という2日について、それぞれどれくらい空き時間があるかを聞いています。2回目は、その4月6日の当日です。今日と、2日後の4月8日について、同じことを聞きました。
1回目の回答では、4月6日と4月8日のあいだに大きな差は出ていません。ところが4月6日になってみると、学生は、今日より2日後のほうが空いていると答えました。同じ2日の間隔なのに、近づいてから差が出たことになります。お金について同じことを聞くと、この差ははっきりしませんでした。
今の忙しさと、2週間後の空き時間は結びつきにくい
近づいてから差が出るのは、先の見込みを、近い日の詰まり具合とは別に立てているからかもしれません。7つ目の実験は、そのつながりを測るものです。
同じ学生に、明日と2週間後について、空き時間と手元のお金の余裕を答えてもらいました。
お金では、明日の余裕と2週間後の余裕が連動していました。一方、時間では、明日の詰まり具合と2週間後の空き具合に関連が見られませんでした。別々のものとして答えられていたようです。
Zauberman と Lynch は、融通のきき方の違いを理由に挙げています。お金は貯めておけるし、足りなければ先から借りることもできる。だから余る月と足りない月がならされます。時間は、そこまで融通がききません。先の日なら予定を動かせても、目先の予定は動かしにくい。ならす手段が少ないぶん、時間の余裕は日によって変わりやすい。だから、近い日の様子を見ても、先の日がどうかまでは見通しにくい。
先週の火曜が何件だったかは、思い出せない
毎日を過ごしていれば、どの日も似たくらい忙しいことには、そのうち気づいてよさそうなものです。二人は論文の終わりで、忙しさの中身が日ごとに入れ替わるので気づけないのだろう、と考えています。
自分の一週間で考えると、これには心当たりがあります。今日がどれだけ詰まっているかは、すぐに言えます。ところが先週の火曜となると、大きな用事のいくつかは思い出せても、全部で何件あったかまでは出てきません。覚えているのは用事の中身で、その日がこのくらい埋まっていたという量の感覚は、ほとんど残っていないのではないでしょうか。
3週間先の予定を引き受けるとき、比べる相手になるはずのその量の感覚が、手元にありません。だから、その日が空いているかどうかは、印象で答えることになるのだと思います。
それでも、時間とお金はもともと性質が違う
ここまでは二人にならって、先の余裕を多めに見込むことを「見込み違い」として扱ってきました。ただ、次のような反論も考えられます。お金は貯めておけるが、時間は取っておけない。資源の性質がこれだけ違うのだから、時間とお金で先の見込みが違っても、それは合理的な判断ではないか。
お金については、この反論は当たっています。お金は貯めたり借りたりして、時期による多い少ないをならせます。だから、先になってもお金の余裕はそれほど増えないと見込むのは、筋が通っています。
時間については、そうはいきません。時間が貯められないことは、先の日に余裕がある理由にはならないからです。どの日にも時間は同じだけあるので、先の日が空いて見えるとすれば、その日に入っている用事が少ないからです。実験1では同じ曜日どうしを比べているので、曜日ごとに決まった予定の違いでもありません。
では、なぜ先の日は用事が少ないのか。実際に少ないのではなく、まだ入ってきていないだけかもしれません。二人も、人は先にどんな用事が来るかが見えないので、今日と同じくらいの用事がまた来るとは考えずにふるまう、と書いています。予定表が空いているのは事実でも、それが当日まで空いたままかどうかは見込みにすぎません。
さらに、先へ回すかどうかは、資源の種類で決まっているわけでもありません。それを示すのが、同じ7つ目の実験のもう一つの問いです。学生に、明日助けを求める団体と、2週間後に助けを求める団体を示し、それぞれにどれくらい協力できるかを聞きました。このとき、一方の学生には手伝い(時間)を、もう一方の学生には寄付(お金)を頼みました。
結果は、学生自身がどちらの余裕が先で増えると思っているかによって分かれました。
- 時間の余裕のほうが増えると思っている学生では、手伝いを頼まれた場合のほうが、2週間後の団体に協力すると答えやすくなりました。
- お金の余裕のほうが増えると思っている学生では、逆に寄付を頼まれた場合のほうが、そうなりました。
- どちらも同じくらいと思っている学生では、差はありませんでした。
つまり、先を軽く見るかどうかは、時間かお金かではなく、その人がどちらの余裕が増えると見込んでいるかによって変わっていました。2つ目の実験で時間のほうに差が出たのも、平均すると時間の余裕のほうが増えると見込まれているからだ、と二人は説明しています。
資源の性質の違いで説明がつくのは、お金の側だけだと思います。時間の側では、過ぎた日を振り返れば、どの日も結局は用事で埋まっていたと分かるはずです。それなのに、その経験を見ないまま、先の日の余裕を多めに見込んでいるのではないでしょうか。
TodOne がどうしているか
引き受けるかどうかを決める場面そのものには、TodOne は効きません。先の日にどれだけ空いているかの見込みを、アプリが代わりに立ててくれるわけではないからです。
できるのは、過ぎた日を残しておくことです。過去の日を開くと、その日のタスクが並んでいます。途中で終わった日なら「5件中4件を完了しました」と出ます。終わらなかった1件を今日へ持ち越せば、その日には片づけた4件だけが残ります。先週の火曜に何件こなしたかは、思い出す代わりに、開いて数えられます。
中身は日ごとに違っても、片づいた件数は日をまたいで並べられます。空き時間そのものではありませんが、一日にだいたいこのくらい片づく、という量の見当をつける材料にはなります。先の日にもう1件入れるかどうかを考えるとき、比べる相手はこの数です。
手帳が続かない話は、一つの作業にどれくらいかかるかの見積もりについてでした。今回の話は、その作業を置く日に自分がどれくらい空いているかの見込みです。かかる時間を短く見ることと、先の日の空きを今日より多めに見込むことは、同じ日に両方起きるのだと思います。
3週間先の仕事として引き受けたその日も、来てしまえば今日です。今日やってくれと言われたらたぶん断っていた仕事が、その日の1件として並びます。並ぶ用事は今日とは別のものでも、こなせる数は今日と同じくらいのはずです。
Footnotes
-
Zauberman, G., & Lynch, J. G., Jr. (2005). Resource slack and propensity to discount delayed investments of time versus money. Journal of Experimental Psychology: General, 134(1), 23–37. ↩